細胞を分子地図として読めるのか
細胞を「形」ではなく、分子の地図として読む
大阪大学の研究チームが開発した、1細胞質量分析イメージングの紹介を読んでいて、顕微鏡で見る細胞の「形」と、化学分析で読む細胞の「中身」が別の情報だと改めて感じた。今回の技術では、マウス脳組織の細胞を1個ずつ調べ、アルツハイマー病やパーキンソン病との関連が指摘される脂質などを、5 µmの画素サイズで可視化している。
探針を小さくするだけではない 使われたのは、探針を細胞表面に軽く接触させるt-SPESIという手法の改良版。装置の質量を45%、イオンの通り道を56%小型化しながら、信号強度は2倍以上になったそうだ。さらに探針表面にフッ素系のコーティングを施して、試料由来の汚れが付きにくくしている。装置開発は、単に「高性能な部品を足す」話ではなく、サイズ、汚れ、信号の弱さを一緒に調整する作業なのだと思う。
化学地図の細かさが変えること 組織画像に分子情報を重ねられると、病気の組織を見たときに、細胞の位置だけでなく、どの場所でどんな脂質の違いが現れるのかを考えられる。5 µmという細かさは、細胞レベルの差を地図として扱うための重要な解像度だ。もちろん、画像が得られたからすぐ病気の原因が分かるわけではない。でも、形態観察と化学分析の間にあった距離をかなり縮める技術に見える。
研究室の装置は「背景」ではない 学部の実験では、分析機器は結果を出す箱として見てしまいがちだった。今回の研究を知って、プローブの先端やイオン経路の設計そのものが、見えるデータの範囲を決めていると気づいた。大阪で化学を学ぶ学生として、研究室の装置をもう少し分解して眺めたい。もちろん本当に分解するのではなく、どこで試料がイオンになり、どこで信号が失われるのかを、ノートに描くところから。詳しい内容は大阪大学の紹介記事「1細胞質量分析イメージング技術」で確認できる。